プロジェクト概要
2023年5月にパシフィコ横浜にて開催された「人とくるまのテクノロジー展2023 YOKOHAMA」。そこに出展され、各業界から注目を浴びたのがOmniverseを活用して生み出したアーム式(垂直多関節)ロボットだ。現実と仮想環境がリンクし、端末上の操作のみでロボットの微細な操作にも対応できるモデルだが、実はこの開発にかかった期間はわずか6カ月。実現したのは、インテグレーションテクノロジー様とテクノプロ・デザイン社との協業プロジェクトチームである。その開発の裏側を紹介する。
超短期のロボット開発
デジタルツイン、メタバース領域で、革新的な取り組みを行いたい
インテグレーションテクノロジー様は、ADAS/自動運転システムの開発支援やモデルベース開発支援において豊富な実績を持つ国立研究開発法人理化学研究所のベンチャー企業。かねてからテクノプロ・デザイン社とは自動車の自動運転開発領域、シミュレーション環境構築などでコラボレーションを遂行しているパートナーでもある。
すでに仮想環境や3Dマップでの開発ノウハウを培っていたものの、エンジニアリングサポートをベースとした製品開発という事業ドメインから一歩抜け出すことができず、生産管理へも展開していきたいが、そのきっかけがつかめないという課題があった。
インテグレーションテクノロジーのインダストリアルDX事業部長の小林将之氏は語る。
「モノづくりという観点から見た場合、開発だけではなく生産工程へのコミットメントは、今後の事業展開を踏まえると非常に重要です。そこにテクノプロ・デザイン社の高瀬さん、渡邉さんから興味深い提案をいただきました。当社がもつシミュレーション環境での開発実績と、テクノプロ・デザイン社のCAE、次世代自働車開発における様々なノウハウを掛け合わせることで、生産管理分野においてインパクトのあるプロジェクトが遂行できるのではないかというお話でした」
沖縄にあるインテグレーションテクノロジー様のグループ企業、リアルコネクト様の視察に訪れたテクノプロ・デザイン社・技術戦略本部 本部長/高瀬健一郎は、3DマップなどVR空間構築技術を目の当たりにし、新しいプロジェクトの構想が生まれたと語る。
「今後、デジタルツイン、メタバース領域は確実にニーズが伸びていきます。テクノプロ・デザイン社としてもこの領域でなにか新しい取り組みができないかと考えていました。2022年9月に行ったリアルコネクト様の視察で『これだ!』と確信しました。そこで小林様に相談を持ち掛けたのがきっかけです」
両社が最大限の強みを発揮できる開発環境としてOmniverse(オムニバース)を活用したプロジェクトを進めていくこととなった。
テクノプロ・デザイン社・技術戦略本部 本部長/高瀬健一郎
Omniverseとは仮想空間を複数人で共有することで、グラフィック上でシミュレーションできるプラットフォームだ。
「自動車開発だけではなく、工場での生産工程においても単なるデジタルツインではなく現実と仮想空間とのデータをやりとりして効率的な生産体制を生み出している海外の事例もありました。しかし国内ではまだこれといった事例はありません。であれば、私たちが先鞭をつけるカタチで、まずは工場で操作できるロボット開発から始めてみようと思ったのです」
プロジェクト開始当初を振り返り、小林氏はこのように語った。
シナジーを創出
お互いの強みを持ち寄り、開発の効率化に直結させる。
具体的には2022年12月からスタートしたものの、そこには様々な壁も生まれた。
例えば、難解なマニュアルの解読もその一つ。Omniverseは英語でのマニュアルのみだったが、まだ導入事例も少なく解説自体が非常に難しい内容だった。
テクノプロ・デザイン社で当プロジェクトの統括を担ったモビリティ統括部/モビリティソリューションセンターの渡邉智博は語る。
「エラーが発生した時にも何が原因なのかをマニュアルだけではなくロボット開発の知識を持ち寄って追求する必要もあり、チームでの課題解決力も試されました。幸いなことにUnreal Engine 4の開発にも従事した経験がある当社のエンジニアがチームに加わり、インテグレーションテクノロジー様でシミュレーション環境について熟知しているエンジニアの方からも、その知見を発揮していただき、海外から出向してきたメンバーもジョインするなど、2社のエンジニアがそれぞれの強みを発揮しながらうまくサイクルが噛み合うことができました。チームが一丸となってゴールに向かうことができたのが、成功に結び付いた大きな要因であると思っています」
そこからわずか6カ月で展示会の発表までたどりつけたのは、リモート環境も大きかったと小林氏は話す。
「チームは一か所の拠点に集まっていたのではなく、名古屋や沖縄など各拠点に点在しながらプロジェクトを遂行していました。そのため打ち合わせも基本的にはリモートで行いましたが、その環境がかえって効率を生み出せたのかもしれません。もちろん、打ち合わせでは何をどこまで取り決めるのかといったタスクの整理も行っていましたが意見交換や相談しやすい雰囲気も手伝って、『アイデアを持ち寄れる場』としてのリモートミーティングの在り方へと自然に確立していったのではないかと思います」
リモート環境をうまく使いこなし、リアルタイムにアイデアを交換できるステージをつくりだす。それが可能になれば、超短期の開発を成し遂げられるという好事例にもなった。
開発の変革に直結
今後のエンジニアは固定観念から脱却する必要がある。
メタバースなどに用いられる技術的な枠組みは、もともとアニメーション映画でのリアルタイムグラフィクスの考え方が用いられているという。エンターテインメント業界から、モノづくり・生産工程への転用など、その汎用性の高さは今後のエンジニアリングにおいても重要な基軸になりうる、と小林氏は考えている。
「今回発表したものはアーム式ロボットですが、これはまだ端緒であり、今後は搬送ロボットによるピッキング作業の効率化など、工場や物流の変革につながる開発にもチャレンジしていきたいと考えています。
またシミュレーション環境でも例えば食品やフィルムなどはまだ難しい分野となっていますが、”柔らかいものを表現する”技術を得意とするOmniverseを活用することでクリアできるものもあるでしょう。
既存の固定観念を壊し、柔軟な視点が求められる時代が始まっています。新しいエンジニアリングの在り方を提案していく意味でも、シミュレーション環境構築、メタバース、アンリアルエンジンなど汎用性が高い技術領域でひとつ成果を打ち出し、そこからさらに幅広いニーズに応えられるような体制を私たちからつくりあげていきたいですね。私たち2社が手を組むことでチャレンジできるフィールドは各段に広がりました。まだ枝葉かもしれませんが、これが太い幹に成長していけるように取り組んでいきます。」
当プロジェクトでの成果として、すでに受注や問い合わせが相次いでいるという。
1社だけではなく複数の知見と視点を持つエンジニアチームが共同で開発できる環境をつくりあげる大切さを実感したと語る渡邉。
「こんなことまでできるの?と驚きを与えられる技術者集団でいたいですね。」
福田 真之介様、石澤 正俊様、小野塚 一樹様、専務取締役 坂口 允様、インダストリアルDX事業部長 小林 将之様