第8回 設計業務におけるDXの取組例や成功例

「DX」という言葉が一般的になって久しい昨今、さまざまな分野でDXへの取り組みが進んでいます。

製造業における設計業務でもDXに関するさまざまな取り組みが進められていることをご存知でしょうか。設計業務のDXも推進するべき理由があり、今後企業が存続し続けるために欠かせない要素の一つでもあります。

この記事では、設計業務でDXが求められる背景と併せて、実際の取り組み例について紹介します。

設計業務でDXが求められる背景

設計業務でDXが求められる背景としては、おもに次の2点が挙げられます。

人手・人材不足や働き方の変化

帝国データバンクの調べでは、2023年1月の時点で人手不足を感じている企業は5ヶ月連続で5割を超えており、多くの企業が人手・人材不足による課題を抱えていることがわかります。

出展:帝国データバンク|人手不足に対する企業の動向調査(2023 年 1 月)

加えて、近年では新型コロナウイルスの流行を期に、働き方にも大きな変化が訪れました。従来はオフィスや現場に出社して働くことが一般的でしたが、自宅などの離れた場所で働く「リモートワーク(テレワーク)」が注目を浴び、新しい働き方として普及しています。

人手・人材不足を解消するためには業務の効率化が欠かせず、効率化のための手段の一つとしてもリモートワークは活用できます。しかし、これらは従来どおりの作業方法では実現できません。ICT技術を活用して業務全体のデジタル化を進め、IoT・AI・ロボットなどを導入することで実現できます。

そのため、人手・人材不足や働き方の変化に合わせてDXの推進が必要とされているのです。これはすべての業務にいえることであり、設計業務も例外ではありません。

 

イノベーティブなサービスの必要性

日本の全業務におけるルーチンワークの割合は諸外国と比較して高い水準にあるといわれています。ルーチンワークに割く時間が多ければ多いほど、その他の業務に割くための時間がありません。

アメリカなどではルーチンワークが少なく、新規開発的な業務の割合が多いといわれていますが、つまり競争力のある新しい製品を生み出す力があるということになります。

日本の製造業がグローバル市場で生き残るためには、イノベーティブな製品・サービスが欠かせません。このことからも、ルーチンワークを減らし、新規開発などのクリエイティブな業務に注力するためにも、DXの推進が欠かせないのです。

【コラム】AI/データサイエンスと流用設計 第8回

設計業務のDXへの取り組み例

設計業務におけるDXへの取り組みとしては、具体的にどのようなものが存在するのでしょうか。ここでは、大きく2つの取り組み例を紹介します。

マニュアルや図面のデジタル化

設計に関するマニュアルや図面の一部を、まだ紙で保管している企業もあるかもしれません。マニュアルや図面を非デジタルなものとして取り扱っている場合、取り出すまでに時間がかかる、紛失する、古くなって参照できなくなる、保管場所に多くのスペースが必要になる、などの問題が考えられます。

マニュアルや図面をデジタル化することは、設計業務におけるDXの第一歩といえるでしょう。デジタルデータとして保管できるようになれば、前述のような問題はすべて解決できます。いつでも・どこでも簡単に参照できるようになれば、業務の効率化が実現可能です。さらにデジタルデータであれば容易にやり取りができるようになるため、リモートワークでもできる業務が増える可能性があります。

また、次に紹介するAIによる流用設計でもAIが学習するためのデータとして扱えるようになり、DXを進めるための土台になります。

AIによる流用設計

過去に生産された製品の設計などをもとに新たな製品を設計する流用設計は、多くの設計の現場で活用されています。しかし、参照すべき設計図が見つからなかったり、参照する人の熟練度などによって品質に差が出てしまったりと、さまざまな課題も考えられるでしょう。

そこで、設計図をデータとして保管することですぐに検索できるようになり、流用設計におけるルールの設定や熟練の設計者のノウハウなどをAIに学習させることで、自動的に流用設計を行なう取り組みも実施されています。流用設計ではルーチンワーク化した作業を繰り返すことも多いものですが、AIが作業をすることで効率的かつ短時間で設計できるようになります。また、AIが設計者の補助としてガイドをすることで、設計者のスキルアップも図れるでしょう。業務の効率化と併せて設計者の教育も実現できることから、AIによる流用設計が注目されています。

まとめ

DX推進は企業の競争力を向上させるために必要であり、存続し続けるために欠かせない施策の一つです。人手不足や働き方の変化、イノベーティブなサービスの必要性など、設計業務においてもDX推進が必要とされています。

マニュアルや図面のデジタル化をはじめ、AIによる流用設計などの取り組みがすでに実施されており、業務の効率化や生産性の向上に役立てられています。特に、今後AIはさらに発展すると考えられ、業務におけるAI活用は欠かせないものとなるでしょう。

この機会に、設計業務におけるDX推進の取り組みとして、AIの導入を検討してみてはいかがでしょうか。