第9回 デジタルツインを製造業で活用する方法とメリットについて
さまざまな技術やツールによって製造業のデジタル化はどんどん進んでいます。今回は、そのなかでも現実の環境を仮想空間に再現する「デジタルツイン」について解説します。デジタルツインという言葉は知っていても、製造業で具体的にどのように使われているのかわからない、という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、デジタルツインの概要から製造業での活用法について見ていきましょう。
デジタルツインとは
はじめに、デジタルツインの概要と併せて、目的や活用される場面について解説します。
デジタルツインとは
デジタルツインとは、現実世界の環境から情報を収集し、仮想空間上に再現する技術のことを表します。
IoTなどによって現実世界の環境や物体からデータを収集することで、仮想空間上に同様の環境を作り出します。仮想空間上の環境は、パソコンやVRゴーグルなどを使うことで、その場にいなくても現実世界と同じように体験することが可能です。
デジタルツインを用意する目的
近年、IoTをはじめとする技術の発達によって、さまざまなデータを高精度かつ瞬時に収集できるようになったことは、デジタルツインが注目されるようになった背景のひとつです。デジタルツインを用意することで現実世界では難しいシミュレーションも、仮想空間上で簡単に実現できます。デジタルツインは製品開発や製品工程の業務効率化や、イノベーション推進を目的として活用されています。
デジタルツインが活用される場面
デジタルツインは製品の試作や都市開発のサポート、災害対策などのさまざまな場面で活用されています。デジタルツインは「シミュレーション」「メタバース」と混同されやすい技術ですが、両者と違い現実世界とのリンク性が高く、完全なデジタル空間である点が違いです。さまざまな場面で、より高精度かつ効率的な業務・作業を実現できます。
製造業でのデジタルツインの活用法
製造業におけるデジタルツインの活用方法としては、次のようなものが挙げられます。いくつかの事例と併せて、デジタルツインの活用方法について見ていきましょう。
開発や品質改善の効率化
デジタルツインは現実世界の情報を仮想空間上に作り出し、そのなかで完結させることが可能です。そのため、製品の試作や品質改善などのトライアンドエラーを行ないやすく、期間も大幅に削減されるため、効率化だけでなくコストの削減も期待できます。
実際に企画や設計の段階からデジタルツインを活用し、開発を進める事例もあります。
遠隔からの工場監視
デジタルツインによって現実世界の情報を取得し、仮想空間上に反映することで工場全体の見える化を実現できます。また、仮想空間はパソコンなどからアクセスできるため、遠隔地から監視することも可能です。
例えば、世界中の自社工場をデジタルツインで再現し、どこからでも工場の状態を把握・監視する仕組みを作ることで、遠隔地からでも異常を発見でき、細かなメンテナンスの指示も可能になります。デジタルツインの活用で、不具合が発生した際のダウンタイムを大幅に削減することが可能です。
現場で起こるトラブルの予測
工場の保守にデジタルツインを活用することで「止まらない工場」を実現しようとする事例があります。
各工場のデータを集めてデジタルツイン上で分析を行い予知保全に役立ててることが可能です。工場のさまざまなデータを収集することで、仮想空間上でも人やモノの動きを再現できるようになり、不具合の予知や予測が高い精度で行えるようになります。加えて、人的要因である作業の遅れも予知して対策する「作業遅延の予知保全」も行なえます。
製品へのセンサー装着によるデータ収集
製品へセンサーを装着し、取得したデータから仮想空間でシミュレーションした結果を現実世界に返す、といった活用方法も考えられます。
例えば、現実世界の大きな空間において、より細かく最適な空調を実現することも可能です。このような環境下では、空間利用の障害とならないように壁面やダクトなどにセンサーを設置するケースがほとんどでした。しかし、この方法ではきめ細かな制御が難しいという課題があります。そこで、デジタルツインとセンサーを組み合わせ、仮想空間上でシミュレーションした結果から得られる「バーチャルセンサー」を利用します。バーチャルセンサーによってより細かく室内環境を把握できるようになり、従来以上に最適な空調を現実世界で実現することが可能です。

まとめ
デジタルツインは現実世界の環境から情報を収集し、仮想空間上に再現する技術です。IoTをはじめとする技術の発達により、さまざまなデータを高精度かつ瞬時に収集できるようになったことから、デジタルツインの活用が進んでいます。
デジタルツインは製品の試作や品質改善の効率化、遠隔からの工場監視、予知保全など、さまざまな場面で活用することができます。製造業におけるデジタルツインの事例も簡単に解説していますので、ぜひこれらを参考にデジタルツインの導入を検討してみてはいかがでしょうか。