第14回 流用設計のAI化による効果

日本社会全体で労働力不足が懸念されるなか、さまざまな業界・業種でAI(人工知能)の活用の検討が積極的になってきています。

AIの活用は、AIが人間の代わりに一部の業務を行うことで、業務の効率化や生産性の向上を図ろうとするものです。製造業においてもAIの活用が活発化してきており、近年では流用設計に応用する例もあります。

この記事では、流用設計のAI化やその効果について見ていきましょう。

流用設計のAI化とは

流用設計とは、過去の製品・部品の設計データを流用し、新たな製品を製造する手法です。この流用設計をAI化することで、具体的にどのようなことが実現できるのでしょうか。

併せて、AI化の流れや注意点についても解説します。

流用設計のAI化でできること

流用設計は、過去に生産した製品の設計データをもとに、新製品の設計を進める手法です。

メリットとしては「品質の安定化」「コスト削減」、「短納期への対応」などが実現できます。

これまでの設計業務においては、この流用設計に割く時間が多く、新規開発に割く時間がないために、イノベーションが生まれにくいという問題がありました。流量設計をAI化することで、流用設計に割く時間を減らし、世の中に新しい価値を提供するような、画期的な製品を生み出すチャンスが生まれます。

 

流用設計のAI化の流れ

流用設計のAI化は、おもに次のようなアプローチが必要です。

 

  1. データ収集と整備
  2. カスタマイズされたAIモデルの開発
  3. 連携と協働
  4. インフラの整備
  5. 継続的な改善と評価

 

AIは導入すればすぐに自動化が実現できる、というものではありません。

人間と同じように情報を知識に昇華することで仕事・作業が行えるように、AIにもデータを与えて学習させる必要があります。そのため、最初に必要となることがデータの収集と整備です。

また、汎用的なAIモデルは流用設計にそのまま使えない可能性があるため、各企業のニーズに応じてカスタマイズされたAIモデルを利用します。その後はAIをサポート役として、人間のエキスパートと連携・協働することで設計業務の効率化を目指します。

前述のデータ収集やAIモデルは十分なインフラ環境が必要です。クラウドサービスや高性能なコンピューターを活用する必要があるため、インフラ環境の整備も行ないます。最後に、AIモデルは継続的な改善と評価を通じて性能を向上させることが可能です。

流用設計のAI化には、このようなアプローチが必要になることを覚えておきましょう。

流用設計のAI化の注意点

AI化を進めるにあたり、特に注意が必要な点がデータとルールの存在です。AIは学習を続けることで性能を向上させますが、適切な訓練データが不足していると正確な判断を行なえず学習効率が下がってしまいます。

また、各企業・各従業員が持つ独自のノウハウや「現場の勘」のようなものをルールとして言語化することも重要です。AI化の際には、設計における部品や回路などの設計するものによって異なる細かなルールである「ルールセット」を洗い出す必要があります。このルールセットも作成者によって粒度が異なりやすく、AI化を進める上で課題となりやすい点です。

【コラム】AI/データサイエンスと流用設計 第14回

流用設計におけるAIの効果

ここからは、弊社における設計業務にAIを導入した際の成功事例をいくつか簡単に紹介します。

AIを用いた測定点の自動作成

自動車部品の測定点作成自動化プロジェクトでは、作業者がCADデータ上に手動作成している測定点データを自動化する試みを実施しました。

測定点の作成は手間がかかるものの、作業自体はルーチンワーク的な業務です。

しかし、部品によっては数千点の測定点があり、非常に手間がかかるため自動化して新規の開発にリソースを当てたいというニーズがありました。

そこで本事例ではCADデータを一括して点群データに変換し、面上に座標が一致する点を得ることに成功しています。さらに、フィルタを用いて選択的に間引くことで、必要な測定点を作成できるようになります。これらを応用することで、測定点作成の工数削減が可能となりました。

回路設計の自動化

電子回路設計の自動化プロジェクトでは、設計トポロジーをデジタル化してAIによる電子回路の簡易提案の実現に成功しています。要求性能・コスト・制約条件などを評価AIエンジンに与えることで、要求条件を満たす回路トポロジーをAIが提案し、設計工程の効率化が実現できました。

また、回路素子値の最適化・回路配置の最適化まで実現することで、導線・物流輸送経路の最適化や人員配置の最適化まで実現できるようになっています。

流用設計のAI活用で次世代設計の割合を増やそう

流用設計のAI活用は、ルーチンワーク化された業務を減らすことにつながります。日本はG8のなかでもルーチンワークが特に多いとされており、全業務の7~8割がルーチンワークといわれているほどです。

流用設計のAI活用によって業務を効率化できれば、従業員は新規開発などのクリエイティブな業務に注力できるようになります。ルーチンワークを自動化して創造的業務にシフトすることは高生産・高収益型ビジネス転換の鍵です。

流用設計のAI活用は将来のイノベーションにつながるといえるでしょう。

まとめ

流用設計のAI化はルーチンワーク化した業務を自動化し、業務の効率化と生産性の向上を実現させるための手段です。製造業の設計業務ではAIを導入した成功事例も存在しており、AIの導入は身近なものになってきています。流用設計のAI化によって、ルーチンワークを自動化して創造的業務に注力してみてはいかがでしょうか。

テクノプロ・デザインでは、課題をヒアリングして費用対効果を見積もりながら「手早く効果的に自動化できる分」を洗い出す提案をし、そのシステム化やノウハウ化を支援します。業務の効率化や自動化に興味がある場合は、ぜひ一度お問い合わせください。