大住孝二/山本晴文

富士ゼロックス株式会社(以下「富士ゼロックス」)で複合機の開発に携わっているテクノプロ・エンジニアリング社(以下「TPE」)の大住さんと山本さんに、複合機のユーザビリティ向上に向けた富士ゼロックスの取組みとお二人のお仕事についてお聞きしました。複合機のあらゆる情報を集めてきめ細やかなサービスや品質管理に結びつけるという、まさに日本人が得意とする繊細な気配りを技術で実現しているお二人に、技術者としての考え方を伺いました。

身近な複合機にもトラブルを防ぐ技術が満載

まずはお二人がどのようなお仕事をされているかについて教えていただけますか?
大住さん
富士ゼロックスの理念『私たちが目指すもの』の中にある『知の創造と活用を進める環境の構築』を実現する、というのがミッションです。もちろん具体的に説明しますから安心してください(笑)。
皆さんが仕事で複合機を毎日のように使っている中で、紙が詰まったり、印刷がずれたり、異音がしたりして困ったこともあるのではないでしょうか。一般に複合機には、そういったトラブルをログ(記録)として保存する機能――航空機で言うフライトレコーダーのようなものを想像いただくと分かりやすいかもしれません――が備わっています。ただ、そのログはプログラム言語と同じような形の記述ですのでソフトウェア開発者か、それと同等の知識を持っている人にしか解読できない状態なのです。現在、私と山本さんはこれら暗号のようなログを、色々な立場の人が見やすい状態に加工する仕事をしています。ちなみに以前は複合機エンジンの制御と、ログをファームウェアに仕込む業務に携わっていました。
私たちが対象にしている方たちは、直接エンドユーザー先で仕事をするサービスエンジニアはもちろん、品質管理担当者、生産管理担当者、開発担当者など多岐にわたります。それぞれの立場によって必要とする情報は違いますし、データの見せ方にも工夫が必要となります。
実際に故障が生じれば複合機が使えないわけですから、サービスエンジニアの故障対応がどれだけ迅速だったとしてもお客様の仕事に支障をきたすことに変わりはありません。私たちはトラブルや故障に一歩先んじてその予兆を解析することで壊れる前にサービスエンジニアが『未然にトラブルの原因を改善する』ことを可能にし、エンドのお客様から「最近、複合機が壊れなくなったね!」と言ってもらえることを最終的な目標にしています。

山本さん
富士ゼロックスには、『“TQMS-Uni”※1による機能連携品質マネジメント』という、製品の品質を『出荷品質』と『稼働品質』とに分けて、別のものとして捉える考え方があります。最近はさまざまなメーカーの技術情報は水平展開されていますので、出荷品質についてはメーカー間の格差はほとんどない状態だといえるでしょう。もちろん出荷品質をさらに向上させていくことはメーカーとして当然の取り組みですが、富士ゼロックスではそれだけではなく、修理要請が来る前にトラブルの原因を修復することで「稼働品質を向上させる」ことを目指しています。
富士ゼロックスは「商品を売るのではなく、ソリューションを販売する」ということ志向している企業ですが、その実現のための技術開発のなかで『稼働品質を向上させる“TQMS-Uni”』に取り組んでいるということなのだと思います。ちょっと偉そうでしたか?(笑)。
※1:富士ゼロックスが導入している品質管理システム『TraceQualityManagementSystem』のこと。複合機管理システムなどを経由して客先設置機械の温度・湿度などの環境データや使用用紙のサイズ・紙質・各部材の劣化状態、さらにメンテナンス実施状況や消耗品の補充、トラブル処置の情報などをTQMS-Uniに記録し、独自開発のデータマイニング技術を用いて分析した情報から消耗品の余寿命予測やトラブルの予兆パターン抽出することでトラブルを予防、またトラブル発生時にも迅速な復旧を実現し、故障診断結果の開発部門へのフィードバックなどを通じた品質向上などにも役立てている。
(参考:富士ゼロックスHP『品質を見張るデータベース」)
大住さん
ひとくちに稼働品質を向上させると言っても、お客様によって設置場所や使用環境は千差万別ですし、各機能の使用頻度もバラバラです。また、業種や職種、会社の習慣などによっても使われ方は結構違ってきます。営業の方は使い方が力強く、事務職の方はやさしく、コンサルティング会社はカラー両面の使用が多く、建築現場では埃が多い環境、裏紙をたくさん使う倹約熱心な会社、壊れるとまずは叩いて気合いを入れる会社…といった具合です(笑)。そういった数値だけでは把握しきれないさまざまな要素に関する知見をノウハウとして取り込むという意図もあって、時々、私も営業サービス販社やエンドユーザー様のところに直接出向いて、生の声を聞かせてもらうこともあります。
営業の方が販売促進を実現でき、サービスエンジニアの方にとってはメンテナンスしやすく、お客様も使いやすい、そんな複合機を作るためには、それぞれの立場の皆さんからの意見を聞くことは非常に重要だと思います。

やる気になれば困難なことも実現できる

ここで、お二人のこれまでの経歴をお聞かせください。
大住さん
私は、高校卒業と同時に大学へ進み…と言いたいところですが、高校卒業後は2年間の浪人生活を送っていました。
高校卒業から浪人時代にもとりわけ将来やりたいことがあったということもなく、
みんなが大学に行くのでその雰囲気に流されて大学を目指す…というような感じだったと思います。
でも2年目の浪人生活が終わろうかという頃にはさすがに「このままではいけない!」と奮起し、
元来モノ作りが好きだったこともあって、プログラマーを目指しコンピュータ関係の学校へ入学しました。
このように明確な目標を立てることができたため、何となく・・・でやっていた受験勉強とはやる気が違っていました。おかげ様でコンピュータの知識など全く持っていなかった自分が大手コンピュータメーカーの関連会社に入社できるまでになりました。
山本さん
私はもともと産業用装置の組み立てをやっていたのですが、機械制御の仕事がしたくて2005年にTPEに入社しました。入社後は、大手電機メーカーの研究所で地デジ関係の組込ソフトの開発に携わり、その後、富士ゼロックスで大住さんたちと一緒に業務に携わることになりました。
大住さん
前の会社に入社した当初は現在の携帯電話基地局にあたる無線基地局制御装置のファームウェア開発を担当していました。3年を迎えるころから持ち前の人見知りしない性格も幸いし―「災いし」かもしれませんが(笑)―親会社に出向してダム管理制御システムの設計と技術営業を担当することになりました。この頃は毎日のように建設省(現・国土交通省)や水資源開発公団(現・水資源機構)など関係各所を訪問して仕様の打ち合わせ、書類作成や提出を行い、おまけにプロジェクトマネジメントも兼任していたため、当時まだ経験の浅かった私には時間的、肉体的、精神的に厳しい仕事が続いたことをよく憶えています。そんな状況で5年目を迎える頃にはあらゆる面で限界に達してしまい、「金輪際、営業的な仕事は嫌だ…」と思うと同時に、やはり「モノ作りをやりたい!」という気持ちが高まり、TPEに入社を決めました。

長く技術者を続けてこそ生み出せる創造的なアイデア

現在、ご自身が携わっている『技術者としての仕事』をどのように捉えていますか?
山本さん
山本さんと大住さん

正直に言ってしまえば、将来を考えると「メーカーに就職した方がいいかな…?」と思う時もあります。でも冷静に考えてみれば、今では終身雇用の制度も崩れてきていますし、絶対にメーカーが安心かといえば一概にそうとも断言できないのではないでしょうか。
体制の整った派遣会社であれば…という前提ではありますが、技術者として長く仕事をしたいと考える人にとっては自分自身のため、また、ひいては日本の将来のためにも派遣技術者としての仕事を職業の選択肢の一つに入れてもよいのではないでしょうか。年齢を重ね、経験を蓄積していくとともに感性が磨かれていき、他人が思いつかないようなアイデアを生み出す、それが私たちの仕事なのではないかと感じています。だからこそ、技術者として長く技術の世界に身を置くことで創造的な仕事ができるようになると思っていますし、そもそも長く技術の仕事ができるという意味では派遣技術者は最適な仕事の形態ではないかと思います。
ちょっと大仰に表現しすぎかもしれませんが(笑)。

大住さん
現在、私たちは『トラブルのない複合機』を作ることを目指していて、私自身もお客様のもとへ出かけてお話を伺うことも多くなっています。そうやって考えてみると「金輪際イヤだ!」と思っていた営業的な仕事をやっていることになりますね。でも、以前に仕事でご一緒した方から声をかけていただいたことをきっかけに現在の部署で仕事をするようになったことを思うと、「必要とされる場所で仕事をしている」というやりがいがありますし、今は本当にありがたいと思って仕事に取り組んでいます。このような考え方もある種日本人的な発想なのかもしれませんが、決して悪いことだとは思いません。営業的な仕事も、いまだに向こうのほうから私を追いかけてくるわけですから(笑)、案外私に向いているのかもしれません。一般的に技術者は自己アピールがあまり上手ではないことも多いと思いますが、どのような仕事でも一生懸命に取り組むことで自分自身のスキル研鑽になりますし、それを見てくれている誰かが必ずいると思いますよ。
『技術』というとついつい派手な部分にばかり注目してしまいがちですが、日本人だからこそできる『こつこつと経験を積み重ねて実現する創造的な技術』という観点でお話を頂いた大住さん、山本さん、本当にありがとうございました。