2020.10.19
《連載》テクノヒントオーディオ倶楽部~エンジニアが語るマニアックな音響世界~第三回エンクロージャーの容積計算を最適化し音質向上を試みる
#オーディオ #エンクロージャー #容積率 #JAZZ #エンジニア #趣味 #ワークライフバランス
トップ > ライフスタイルのアーカイブ > 《連載》テクノヒントオーディオ倶楽部~エンジニアが語るマニアックな音響世界~第三回エンクロージャーの容積計算を最適化し音質向上を試みる
2020.10.19
#オーディオ #エンクロージャー #容積率 #JAZZ #エンジニア #趣味 #ワークライフバランス
技術力を趣味に生かして人生を楽しんでいるエンジニアがいます。
テクノヒント オーディオ倶楽部~エンジニアが語るマニアックな音響世界~では、技術分野を活かしていかにして「音」を極めていくかを連載でご紹介します。
今回は、機械装置開発の専門家であるテクノプロ・デザイン社の秋元氏より、自作スピーカーの制作過程の一部を公開していただきました。自作のきっかけから、エンクロージャーの容積計算で最適な音質を得るまでの取り組みをご紹介します。
昔からもの作りが好きで発電プラント設計会社へ就職したが、自分でも作りたくなりプラント設計施工会社へ転職。
その後、ロボットに興味を持って精密機器メーカーへ転職、さらに光学機器メーカーへ転職して三次元座標測定機や半導体検査装置を開発。2012年に面識があったテクノプロへ入社。
趣味はゴルフやオーディオにカメラ、それに飛行機やヘリ等のラジコン模型と鉄道模型等。現在はドローンを狙っている。
皆さん、こんにちは。
初回の「テクノヒント オーディオ倶楽部」では、河村さんと楽しいオーディオ談義ができました。
二人が何を楽しんでいるのかを話題にしたので、お互いの切り口は違っても、私たちが銘々好きな方向でオーディオを楽しんでいることを判って貰えたと思います。
その際、私は良い音が聴きたくてスピーカーを自作した話をしましたので、今回はそこに至った経緯や製作過程についてもう少し触れて見たいと思います。
スピーカーを作り出すまでの前置きが少し長くなりますが、それがコストと時間を気にしない趣味の世界の出来事だと捉えて頂ければと思います。
初回では、久しぶりに友人宅で聴いたレコードの音の良さを再認識したことを話しました。その時のアンプは準A級のパイオニア製で、スピーカーはエレクトロリサーチ社のモデル340でバスレフ型(スピーカーの構造、他にも密閉型などがある)4Wayでスーパーツィーター付き、ウーファーは30cmです。
伸びやかな高音と迫力のある重低音が出ていましたが、床がフローリングで洋間だったせいかも知れません。
自宅へ帰り、あらためてホームシアター用アンプDENON AVC-3550 7.1chと東芝のRD-X5 マルチプレーヤー、それにスピーカーはDIATONE DS-77Zの組み合わせでCDの音楽を聴いて見ると、薄っぺらい音だなー、何だこれはと思いました。
やはり、CDの音はこんなものかなと思いました。
そこで、昔から使っているレコードプレーヤーDENON DP-3000を繋いでレコードを鳴らして見ましたが、これも臨場感が無い。
カートリッジをMM式(ムービングマグネットの略:カートリッジの構造の呼び名)のEmpireやMicro、Ortofon等に変えて聴いて見たけど、あまり代わり映えがしません。
そこでMC式(ムービングコイルの略)の DENON DL-103も試してみたけど、満足できる音ではありません。
やはり、このクラスのホームシアター用アンプは多cH用のアンプを内蔵しているため、映画を楽しむには良いが音楽を聴くには適していないのかも知れません。(私の勝手な感想ですが)
余談ですが、CDプレーヤーは中身をいじることはできませんが、レコードプレーヤーはカートリッジやトーンアーム、さらに筐体等を変えることで音作りが楽しめます。
続けて、自室で昔から使っているSANSUI AU-D707XアンプとスピーカーはDIATONE DS-36BRで聴いて見ると少しはましですが、友人宅で聴いた音に比べると全然満足できるものではありません。
ここで、一念発起し、もう一度良い音で音楽を聴けるオーディオを揃えようと思い立ちました。
先ずは音作りの根源であるアンプが古いので最新の物に変えようと考え、オーディオ好きな友人に相談するなど、他の友人宅のオーディオも試聴しました。さらにオーディオショップを覗き、オーディオ関連のフェアや試聴会へも足を運び、
最終的には何十年も昔々に通い詰めた秋葉原へ物色に出かけました。
ここは一か所で豊富な情報が得られ、実物にも触れられる恵まれたところですね。
オーディオ専門店には国産メーカーや外国メーカーを含め多数のアンプがあり、方式もA級やB級、AB級、真空管式(音声信号の増幅方式でアンプには色々な種類があります)と様々です。
しかし、国産オーディオメーカーのSANSUIやTECHNICS、さらにYAMAHAやVictorなどの製品は無く、辛うじてLUXMANとACCUPHASEが残っている位です。最近、オーディオはあまり流行っていないのだなと思いました。
国産メーカーが並べているのは子供向けの安いミニコンポばかり、あんな物で聴くと耳が腐ると我が家の子供達へは言い聞かせています(これも私の偏見ですので悪しからず)。
個人的には昔からMacintoshに憧れがあったのですが、色々と迷った末に予算の関係もあり、TRIO(現在のKENWOOD)の流れを汲むACCUPHASE(基本的に国産主義者なのです)のE-408を買うことにしました。
実のところ、これは私の1年分の小遣いに相当します。へそくりは有ったのですが、今後のオーディオバージョンアップ計画の予算を確保するため、一日二箱吸っていたタバコを休止することにしました。(止めるのは寂しいので、欲しいものを手に入れたら解禁するという喫煙者の安直な考えです)
さて、清水の舞台から飛び降りて買ったアンプです。早速、期待して自宅のセットに繋いで見ました。しかし、聴いて見ると少し帯域が広がってパワフルな音になった様には感じましたが、残念ながら投資額に見合った程の期待した結果は得られませんでした。
これでは、まだまだ友人宅で聴いたアメリカ野郎のスピーカーから出て来る音には程遠いという感じでした。やっぱり、アンプだけを新しくしても駄目だなー、全部見直そう
と思いました。
やはり、良い音作りには入り口から最終段のスピーカーまで、全ての要素が起因していることを再認識しました。話がそれますが、秋葉原の山際電気で拝聴した2,000万円もする超高級オーディオセットは、試聴室も立派で凄く良い音がしていましたが、スピーカーを繋ぐケーブル1本が38万円もしていました。
お金に余裕のあるオーディオマニアは家まで建て替えるそうですが、とてもそこまでは真似ができませんね。
今度は良い音が出るスピーカーを探そうと再び秋葉原へ出かけました。
しかし、改めて思うに、何軒かの店に足を運びましたが、昔に比べてオーディオ専門店や試聴スペースを備えた店が圧倒的に少なくなりましたね。
それに、アンプと同様に国産スピーカーメーカーも少なくなりました。
その中で国産メーカーのDENONやVictor、FOSTEX等の音を聴いて見ましたが、
どれもコストパフォーマンスは高いけど、何処にもありそうな音で購買意欲が興るほど魅力的な音には感じられません。自分の好みとは違うようです。
その中ではDYNAUDIOの小型スピーカーは値段も手ごろで良い音がしていた記憶があります。
海外製では有名所のB&WやJBL、TANNOY、DALI、ソナス・ファベール、KEFなど様々なスピーカーの音を聴いて見ました。
1セット30万円程度のスピーカーは見栄えはそれなりに良いのですが、音質は現在所有しているスピーカーの方がましな感じで、わざわざ買い替える必要はなさそうです。
試聴では自分好みの音を確かめるため、1セット50万円、70万円、100万円、200万円、300万円とメーカーも変えながら、段々と高額なスピーカーの音を聴き比べて見ました。メーカーによって音作りはそれぞれ方向性が違います。
ただ、同一メーカーのスピーカーなら、明らかに高額なほど良い音になります。流石に高額になると音が明瞭と言うか、楽器の音がごちゃ混ぜにならずに、それぞれが鮮明に聞こえて定位が良くなります。
しかし、それ以上に外観の作りも手が込んでいて、かなり外観に金が掛かっているなと言う印象を受けます。やはり、1セット200万円位は覚悟しないといけないかなと云う感想です。
ここで考えたことは、まずは自分好みの音が出せるスピーカーメーカーを選び、次は予算が許す限り高い物を狙うのもありかなということです。
尤も高級なオーディオを所有される方は、立派なオーディオルームがあるでしょうから、その様な場所へ見た目が貧弱なスピーカーは置けませんけどね。
その様な話をオーディオ好きな部下と話していると、
「それならスピーカーを自作しませんか。自分も作ろうと思っているので一緒に如何ですか。市販品に比べると材料代だけで済むので、1/10位の予算で作れますよ」
と言うではありませんか。
私は自作ではあんなに素晴らしい音は出せないよと言うと
「そんな事はありません。高級スピーカーメーカーが使っているのと同じ部品が入手できますよ」
というではありませんか。
そこで、早速、彼が通っている高級スピーカー部品を扱っている(株)イーディオへ様子を見に出かけました。
店内にはスピーカーユニットやそれらを用いて作ったスピーカーが多数展示してあり、試聴して見て耳を疑いました。
秋葉原で試聴した高級スピーカーにも負けない位の良い音で鳴っているではありませんか。尤も展示してある完成品の価格は設計製作費が含まれているので、秋葉原で聴いたメーカー品の1/3程度かなという価格で1/10にはなりませんが。
それでも、これなら自分でも良い音に手が届くと思い、一瞬(一聴)で自作する気になりましたね。
何度かイーディオへ通って色々なスピーカーを鳴らして貰い、高音用と中音用、および低音用のスピーカーユニットを選びました。
自作スピーカーのコンセプトは「1セット200万円のスピーカーを超える」です。
自分なりの感覚で言うと、JazzやClassicの演奏で澄んだ金属音が出る高音と乾いたドラムの音が出せる低音、さらに空気を揺るがすベースの重低音が聴きたい。
さらに、できれば中島みゆきや吉田拓郎の声も聞きたいと言うものです。
予算は一応30万円にしました。取らぬ狸の皮算用ですが、これで1セット200万円以上の市販スピーカーの音が手に入るかなと期待が膨らみました。
振り返って思い起こして見ると、友人宅で聴いたスピーカーは米国製の4Wayスーパーツィーター付きで30cmウーファを搭載していました。
スピーカーユニットのダイヤフラム(振動板)面積が大きいほど同じ振幅量で動く空気の質量は大きくなるのですが(これを放射インピーダンスと言う)、友人宅と同等の低音エネルギーを得るには30cmウーファが必要になります。
しかし、そのサイズではエンクロージャの幅が40cm必要となって材料の選択も限定されます。
迷った末に直径20cmから25cm程度のウーファを2個搭載すれば、概算ですが振動版面積が30cmと同等になり、さらにボイスコイル等が軽くなる分、振動版が動きやすくなり、動く空気量も増えて低音が出せるだろうと考えて製作することにしました(正しい理論もあり、期待を込めた判断もあります)。
下記が概算のダイヤフラム面積ですが、実際にはエンクロージャへの取付枠などがあるため、各々一回り小さなサイズになります。
30cmウーファのダイアフラム(振動板)の概算面積=(30/2)^2×π=706.5㎝2
25cmウーファのダイアフラム(振動板)の概算面積=(25/2)^2×π=490.6㎝2×2=980㎝2
20cmウーファのダイアフラム(振動板)の概算面積=(20/2)^2×π=314.5㎝2×2=630㎝2
しかし、同じ様な直径のウーファーでも、狙った特性やメーカーによって再生周波数が異なり、重低音用として設計したものや低音から低中音までをカバーできる物等様々です。
私はここでも少し遊びを加えることにしました。
同一ウーファを2個搭載するのではなく、前記の要素を加えて見ようというものです。この狙いは前にも書きましたが、「乾いたドラムの音が出せる低音と空気を揺るがす重低音」の実現に寄与するのではないかという期待からです。
このような条件を考えて、(株)イーディオにてスピーカーユニットを選びました。
先ず、ツイータ(高音用)ですが、超高級スピーカーにも使われていて金属音が素晴らしいThiel&Partner製のAccutonを採用することにしました。
同じシリーズにダイヤモンド製振動板とセラミック製振動版が有り、前者は30万円/個、後者は3万円/個です。
聞き比べると確かにダイヤモンド製は再生周波数が2KHz~75KHzで鋭く伸び切った高音が出ていますが、私の予算ではこれを1個買ったらお終いです。
後者でも再生周波数は2KHz~30KHzまでの高域レンジを再生可能なので、男らしくきっぱりと諦めてセラミック製にしました(将来、宝くじが当たったら買い替える予定です)。
次にスコーカー(中音用)ですが、ツイーターとセットになって展示されており、歌手の声が明瞭に聞こえるSCANSPEAK製のVifa PL11WH09-04にしました。何しろ低価格も魅力でした。
次にウーファー(低音用)ですが先にも述べた様に2個搭載するのですが、再生周波数特性が異なる物を選びました。
先ずは重低音用ではSCANSPEAK製で再生周波数が25-500HzのVifa PL22WR09-08にしました。もう一つは少し中域までカバーしているSeas製で再生周波数が32-2500HzのP21RFX/Pにしました。
参考までに各ユニットのデーターシートを下記に記載します。
さて、ユニットが決まったら、エンクロージャの設計です。一般的に豊かな低音を出すにはスピーカーの容積は大きい方が有利です。
しかし、横幅は大きくしたくなく、また20cmウーファーを採用したいという思いもあり、幅は30cmとし、高さと奥行きで容積を稼ぐことにしました。
また、トールボーイ型の方が低音再生には有利なことも方向付けになりました。
スピーカーは可能な限り自然な音を再生するのが目的なので、変な癖が出ないように周波数帯域毎の再生特性を可能な限り平坦にします。
特にウーファーユニットの特性に見合ったエンクロージャ容積を設計することが重要です(これを平坦容積と呼びます)。
スピーカー製作に際し、色々と調べて見たところ、スピーカーユニットの特性から密閉型スピーカーの平坦容積を計算する方法を見つけたのでこれを参考にさせて頂きました。計算には以下の数値が必要になりますがメーカーのデータシートに記載されています。
(参考資料:手作りスピーカー屋。https://speaker.easy-myshop.jp/)
最低共振周波数 F0 [Hz]
総合共振尖鋭度 Qts
等価柔軟性空気体積 Vas [ℓ]
平坦容積計算の解説ではユニットをエンクロージャに取り付けるとQtsとF0が同じ比率で上昇し、それぞれ取付時の総合共振先鋭度Qtcと取り付け時の最低共振周波数F0cになり、Qtc = 1/√2 = 0.707の時に最大限平坦な特性になるそうです。これを基に計算していくと必要なスピーカーの容積を求めることができます。
そこで、Qtc = 1/√2 = 0.707として平坦容積を計算します。
先ずは、上昇比を求めます。
上昇比 = Qtc / Qts = F0c / F0
次に上昇比から内容積係数を求めます。
内容積係数 = 上昇比2 - 1
最後に、密閉型の平坦容積は次式で求めます。
容積 [ℓ] = Vas [ℓ] ÷ 内容積係数
その結果、以下表1の「7.密閉型の平坦容積を算出」が得られました。
計算項目 | SEAS(低音用) | Vifa(超低音用) |
---|---|---|
1.最低共振周波数 F0 [Hz] | 非公開 | 非公開 |
2.総合共振尖鋭度 Qts | 0.23 | 0.34 |
3.等価柔軟性空気体積 Vas [ℓ] | 48.3 | 56 |
4.総合共振先鋭度 Qtc = 1/√2 = 0.707 | 0.707 | 0.707 |
5.上昇比 = Qtc / Qts = F0c / F0 取り付け時最低共振周波数F0c |
3.074 | 2.079 |
6.上昇比から内容積係数を算出 内容積係数 = 上昇比2 - 1 |
8.449 | 3.324 |
7.密閉型の平坦容積を算出 平坦容積[ℓ] = Vas[ℓ] ÷ 内容積係数 |
5.717 | 16.847 |
8.エンクロージャ内部の実寸法=幅×奥行×高さ(cm) | =25.8×33×23 | =25.8×33×38 |
9.エンクロージャの実容積(ℓ) | 19.582 | 32.353 |
10.エンクロージャの外形寸法=幅×奥行×高さ(cm) | =30×37×95 | |
11.エンクロージャの内寸法=幅×奥行×高さ(cm) | =25.8×33×89 | |
12.エンクロージャの総容積(ℓ) | 75.775 |
この値を参考にエンクロージャのサイズと各ユニットのレイアウトを考えることにしました。
先ず、計4個のスピーカーの配置ですが無難なデザインとし、最上部にツィーター、その下にスコーカー、さらに中低音用ウーファー、最下段に重低音用のウーファーとしました。
次に各ウーファーが必要とするエンクロージャ容積を計算で求めました。
さらに、材料の無駄が少ない板取りサイズを検討し、高さ950㎜×幅300㎜×奥行370mmと決めました。
また、外部にビス類を出さないため、24mm角の角材で骨組みを組んで内側から板を固定する構造とし、可能な限り箱鳴りを減らすために板厚は21㎜としました。
さらに、各ユニットの干渉を避けるために内部をセパレートし、独立した部屋構造に。